2022.05.02
一枚の真っ白い紙は、ヨレも汚れも、まして破れすらもない。綺麗な紙。それを、大切に、大切に。決して落とさない様にギュッと握って持っていた。気がつけば紙には強く握った跡が付いてしまっていた。ピンと伸ばしてみても、重いものを乗せてみても、跡が消える様子はない。これ以上握った跡がついてしまわぬ様にと、今度はそっと紙がひしゃげない様に持った。大切に、大切に。そうしていつの日か、紙の行方はわからなくなった。握った跡を恐れて、落としてしまったらしい。歩いた道、記憶の隅々、身の回り、思いつく限りを探し回って漸く紙は見つかった。が。幾度も踏まれた様な折り目と、紙の中心にはぽっかりと破れて出来た穴が空いていた。これではいけないと思い、紙を治そうと目論む。セロハンテープで穴を塞いで、折り目が目立たない様に、白のペンで塗り潰した。そうして出来上がった紙は酷く醜いものになってしまった。またどうにか治そうにも、恐らくどう足掻いても難しい。一度でも折れたり、よれたり、穴が空いたり破れたり。少しでも形が変わってしまえば、修復なんて出来ない。テープやペンや錘に縋って誤魔化してみても、そんなものはまやかしの他過ぎない。真っ白い綺麗な紙。大切にしないと、忘れない様にしないと。そうやって考えを巡らせてしまうことが、穴を開けてしまうかもしれない。その穴はあなたをたらしめるものだとしても、幾ら誤魔化しても塞がらないよ。
恐れぬまま、自分の思うままにペンを走らせて。一枚の美しいものになるように。それがどんなに汚なくても、理解のされないものだとしても。